データから見る中国新薬R&Dの変化
中国の経済規模(GDP)は10年前に日本を追い越し、その後米国を追いかけ、昨年は米国の75%にまで迫りました。一方で一人当たりのGDPは日本の数分の一。平均レベルは低い一方で、日本のリッチな方々の上を行く富裕層も中国には分厚く存在するのもまた事実です。
中国の新薬R&Dも全体の経済規模の膨張を体現しているような様相を呈してきました。
2015年に始まった中国の医薬品産業に関する行政・政策(薬事、知財、一般法等)の大きな舵切りによって、その後、中国の新薬R&Dは想定外の飛躍をみています。公表されているNMPA(薬事当局)の年報をベースに過去からの変化を辿ってみたいと思います。
1.INDの申請数
中国での新薬のIND申請数は、10年前は30件だったのが、2021年は640件に上りました。
下記の通り、2015年の政策転換を契機にIND申請数は2017年に大幅増、そしてここ3年の急増につながっています。また、新薬は海外からの輸入というのが過去の相場だったのが、近年は中国での国内製造が主流となってきており全体の76%を占めています。
2.モダリティー
過去10年一貫して低分子医薬が50%以上を占めていますが、趨勢としては減少傾向にあります。次いで、抗体医薬が大きな割合を占めています。そして、ぺプチド医薬、細胞治療、遺伝子治療、核酸医薬の各分野でもグローバルの前列に向けてひた走っている感があります。
3.開発段階
INDの件数上、Ph Iが全体の50%を占めています。他方、Ph IIIの比率が年々増加しており、2021年は30%近くに上っています。
4.癌の臨床プロジェクト
下記の右の表のとおり、癌のpivotal 臨床試験数は、2018年に中国企業の試験数が米国のそれを抜きました。PD1/PDL1のプロジェクトの進展を踏まえた結果です。
<注>美国:米国のこと
5.NDA数
NDA申請・承認の件数とも下記の通り増えています。
特に中国企業の件数が増えており、2021年にはNDA申請の総数83件の内、中国企業が51件、外資の輸入薬が31件となっています。
6.現状認識
数字上は、通信・IT等の技術分野と同様に中国企業の新薬分野のR&D膨張も近年、著しいものがあります。ただし、リスクの低いdrug targetで、me-too的なアプローチがまだまだ多くを占めています。沢山の中国プロジェクトの内、比率は小さいですが、革新レベルの高いものも含まれているとされています。上記の通り、中国企業のプロジェクトでPh IIIに入るものも増えてきています。その意味で、日本企業が新薬を導入するという視点から、中国企業のプロジェクトの開発動向をウオッチしていく必要性が高まって来ています。現状では、中国発の新薬に対して欧米系企業が網を広く・深く張っており、日本企業のアクセスの余地はあまり広くないのかもしれません。これは、日本人が欧米を中心に興味が惹かれているという「興味の方向性」に起因する思われます。
Author Profile
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弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)
藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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