Entries by 川本 敬二

,

新薬特許の無効【中国のパテントリンケージ制度②】

中国ではパテントリンケージ制度の導入にあたって、ジェネリック企業に対してアメを与えています。新薬の特許が満了する前に、当該新薬特許は無効であると主張してジェネリック薬の上市の承認を求める申請(ジェネリック申請)を行い、実際に「ジェネリック申請段階の特許侵害審理」で特許無効の主張が認められ、かつNMPAでの審査でジェネリック申請が認められて「最初」の上市の許可が付与された場合、当該「最初」のジェネリック薬に対して、1年間の独占販売権が与えられます。したがって、この1年の独占期間中は新薬と最初に承認されたジェネリック薬の二剤のみしか市場に出ないことになり、最初のジェネリック薬に営業上大きなメリットをもたらします。

中国企業の平均年収と医薬品業界の位置づけ / 将来の日本人の職場になり得るか?

中国の国家統計局から2020年の業界別の全国平均賃金が発表されました(5月19日)。賃金に何が含まれているか、さらには物価も違いますので、日本のそれと金額を単純に比較するのは難しいと思います。また、中国の方々の収入は上と下の格差が非常に大きいので、そもそも平均値の代表性については日本ほど高くはないのかもしれません。例えば、「上海・北京・深圳」の給料と「瀋陽・武漢・ウルムチ」の給料の間には大きな地域差があります。ただし、中国国内の業界、職位別でその差がどうなっているかの理解の一助にはなると思い紹介します。

「双通道」と医療保険(医薬品の保険適用の促進)

前回の記事の通り、PD-1等の高価な新薬を含む抗癌剤に対して保険適用がされるようになりました。しかしながら、2018年-2019年に医療保険リストに収載(保険収載)された新薬等が実際に病院で処方されている比率は25%に留まっているという現状があります。保険収載されても処方されない、なぜそうなるのか複数の理由が挙げられていますが、その一つが薬剤費比率の抑制策です。各病院では、ある新薬を採用し処方を開始する場合、まず、それまで処方されていた薬剤の納入を終了する等の措置がされているのが実態ですので、特に高価な新薬の場合は、新規の採用が非常に難しくなります。当該新薬の病院での処方がなかなか進まず、患者からもクレームが出ていました。

,

ジェネリック医薬品の承認申請の審査中に発生した特許侵害紛争の早期解決システム【中国のパテントリンケージ制度①】

2021年5月18日に、NMPA(審査部門CDE)よりパテントリンケージシステムの肝となる「特許情報プラットフォーム」がネット上に公表され、5月末までを試行期間としました。中国で新薬の開発が終わり、NMPAに承認申請をする際、新薬の開発を行った企業(新薬企業)が当該新薬をカバーする特許(新薬特許)をこの特許情報プラットフォームに入力し、その特許情報が公衆に公開されます。そして、ジェネリック企業は新薬特許の満了日を睨みながらジェネリック薬の開発を進めることになります。しかしながら、ジェネリック企業は新薬特許の満了に先立って、新薬特許は無効であるとか、ジェネリック薬は新薬特許を侵害しないと主張(声明)し、NMPAに対しジェネリック薬を承認申請することが可能です。この声明も同時に特許情報プラットフォームに掲載されます。

, , ,

中国国産のPD-1免疫チェックポイント阻害剤(抗癌剤)と医療保険

今、ホットなPD-1癌免チェックポイント阻害剤(抗癌剤)、中国は自主R&Dによる新薬が、4製品既に承認・上市済です。ポイントになる保険適用ですが、今年(2021)年3月から適用の医療保険リストには、これら4製品の全てが収載されています。従来は、新薬の承認が下りれば、まず病院に納入され、患者は自己負担で使用します。そして実績を作ってから、その数年後にやっと医療保険リストに収載され、保険償還されていました。日本では新薬の承認と薬価収載はセットでされますが、中国では、近年やっと承認後、短期間で新薬に保険が適用される時代が到来しました。これによって、薬価は大幅に引き下げられましたが、新薬の市場は大きく拡大すると言われています。 

,

中国企業の新薬ライセンスイン(導入)一覧

今から遡ること50年、1970年代の日本の製薬産業は新薬のR&Dの本格的な勃興期、多くの企業は未だ海外からの導入品が各社の稼ぎ頭だった時代に、各社が自社研究を拡大する為に中央研究所を建設しました。それから30年経過後の21世紀に入っても中国では各社の稼ぎ頭はジェネリック品、それを巨大な工場で生産していました。その頃から新薬研究所の種蒔きが始まり、それから20年経過した今、新薬研究開発に火が着いています。ただし、今の中国は日本の50-40年前とは火の着き方が多少違っています。日本で火の着いたころは、大手の製薬企業が欧米から上市済の新薬をライセンスイン(導入)しながら、並行して自社で自社品のR&Dを実行していくのが主流でした。これに対して中国の今は、世界の潮流が変わり、ベンチャー・キャピタルの投資マネーが駆動となって、小規模の小回りの利くバイオベンチャーが自社の研究所を立ち上げています。それと並行して、欧米から新薬のプロジェクトをライセンスIN(導入)しています。 

,

中国CRO各社の2020年度業績・活用について

中国のCRO(受託で試験研究を行う会社)・CDMO(受託で化合物・治験薬等を製造する会社)各社の2020年度業績が公表されました。公表されている29社の売上高の総額は、前年比35%伸びています。中国では、このCRO・CDMOは一般に下記のカテゴリーに分けられます。① 新薬の前臨床試験を広く受託する総合型CRO・CDMO、② ジェネリックの試験を受託する総合型CRO・CDMO、③ 低分子化合物等のCDMO、④ バイオ系のCRO・CDMO、⑤ 薬理・毒性に特化した試験を受託するCRO、⑥ 臨床試験を受託するCRO(clinical CRO)

中国の受託研究機関(CRO・CDMO)の発展

中国のCROは、元々ジェネリック薬の合成・CMC等の受託研究をする機関でした。それが、2000年初頭、药明康德(WuXi)に代表されるような新薬研究の受託CROが勃興しました。それらのCROは、欧米のMNC(多国籍企業)から新薬に関連する非臨床研究(合成、毒性、薬理等)を受託するというビジネス・モデルで、上海を始め各地で旗を上げました。そして、あるCROは特定のMNC向けに代謝研究等を行う専用ビルを建設するなど、グローバル基準に則った試験の実行体制が整えられました。

,

海南省でRWD/RWS開始、 海外上市済薬剤の承認申請が加速

海南省において経済成長の柱は、医療、旅行・バケーションとして、低炭素/生態系保存の社会体系を構築し、国際的な機関が集結する地域を目指すとしています。「医療」の目玉の一つが、新薬・医療機器の承認・市販後調査に関し、海南島を起点として中国全土に展開する、RWD(Real World Data:リアルワールドデータ)のプラットフォームを構築するというものです。RWD(Real World Data)ですが、プロトコールで制御された臨床試験により得られるデータに限定されず、医療の現場で実際に医薬品・医療機器が患者に使われた際に生まれるデータを意味します。そういったデータを新薬等の承認審査に利用していこうという構想です。 

国家戦略地域として新たな発展を遂げる海南省

海南島は、中国の最南端にある中国最大の島で、面積は台湾とほぼ同じ、そして、政治的に注目を浴びている南海に向かって浮かんでいます。従来の印象としては、新婚旅行で行く美しい海岸、それと、欧州のダボス会議に対抗してボアオ・アジア会議が開催される所、くらいの印象でした。ところが、2020年に「海南島」が国家戦略地域に指定され、自由貿易地区を展開すると宣言されてから、俄然、経済的にも注目される地域となってきました。

,

科創板の上場要件(IPO要件)(上海証券取引所・科創板(The Science and Technology Innovation Board; STAR Market))

科創板(The Science and Technology Innovation Board; STAR Market)がこの6月に創設2周年を迎えます。3月末までに、IC集積回路、医薬バイオ、新素材、ハイエンド製造等の分野の251社がIPOに成功しました。内56社が医薬バイオ関係会社です。全体の中で医薬バイオ関連企業が占める割合は22%です。一方で、これまでに95社がIPO申請を取り下げており、内11社が医薬バイオ関連企業です。特に直近の3か月にIPO申請の取り下げは、57社と相次ぎました。 科創板の上場中止が相次いだ原因 こうしたIPOの中止や取り下げは、科創板(Star Market)の「上場基準(IPO)」の変更、厳格化に起因しています。

処方薬の電子商取引(医薬品のネット販売)の具体化について政策が発表される

「六保、六穏」とは、2018年に中国政府が打ち出した政策で、国民の就業機会および生活の基本等を「確保」することによって、企業が事業を行うビジネス環境の整備・「穏健」化を図り、投資の推進に結び付けようというものです。この政策実施の一環として、2021年4月15日に国務院が新たに政策文書を発表しました。 「六穏」「六保」の基本政策概念を更に進めて行政管理の簡素化を推進する為の指針(关于服务“六稳”“六保”进一步做好“放管服”改革有关工作的意见)国办发〔2021〕10号

哈薬集団(Harbin Pharmaceutical Group)

中国の東北地方(満州)の黒竜江省・ハルピン市を発祥地とする老舗企業、ハルビン製薬 (哈药/Harbin pharma) (600664/SSE) 。国有企業をルーツとし、経済的に停滞が続く地域に本拠を構えていたハルピン製薬は、2004年に外部資金を導入するも、2014年以降、業績が下降線を辿っている。その立て直しとして、2018年には国の持ち株比率を38%にまで抑え、続く2019年、元中国ノバルティスのトップを総経理として迎え、外部人材を続々と投入、北京市内の瀟洒なビルに営業部隊を編制する等の変革を試みてきた。

2020/12/3 ウェビナー 「生の中国 / 新薬の臨床開発·事業化」

この度、「新薬・日中未来」セミナー研究機構を立ち上げました。ここ数年、一気に、多彩な変化を遂げつつある中国。断片的な情報は得られても全体の繋がりが分からない、その全体像を捉えるのが非常に難しいといった声を耳にします。そういった中国情勢を肌感覚で分かっている中国現地の方であって同時に日本の情勢にも明るい中国の演者が「生の情報」をご提供します。 今の中国の変化を日本独自の立場から捉えて考えて頂く機会をご提供できればと希望しております。 初回は、コロナ後、世界市場の中で益々、重きをなして行くであろう中国の「新薬ビジネス」の潮流を理解して頂く為に、新薬の「投資」・「事業」・「知財」・「臨床試験」を取り巻く環境の変化について、生の現場に身を置いている夫々の専門家・業界リーダーからポイントを絞って語ってもらうセミナーを開催する運びとなりました。今回はweb開催となりますが、奮ってご参加下さい。新薬の中国ビジネス展開に課題を抱えていらっしゃる方々の一助になれば幸いです。 日時 12月3日(木曜日)、午後1時半〜3時45分(2時間15分) 演者、演題 1.「増大する中国マネーが支える新薬の臨床開発」 (午後1時半〜2時)  孙 羲昱  国泰君安証券研究所 業務役員、業界アナリスト <日本語> 2.「中国ならではのPh II・III、マーケティングの難しさ / 中国企業との連携」(午後2時半〜3時) Frank呉  TransThera社 CEO  <英語:通訳 川本> 3.「知財環境の変化が医薬ビジネスにもたらす影響(Patent Linkage を中心に)」 (午後2時〜2時半)  劉 桂明  元中国知的財産局(審査、政策)、現 新薬R&D企業 <中国語:通訳 川本> 4.「一大臨床開発拠点としての中国(規制環境の変化を踏まえて)」   (午後3時〜3時半) 孙 華竜 Clinical Service Center共同創始者兼執行副総裁及びMeta Clinical Technology社CEO               <日本語>          総合司会      安藤 英広                        KoMong & Associates,  Andy Pharma Partners代表 演者略歴 孙羲昱  東京大学工学系研究科修士、日本の大手損保で債券業務、その後、中国にてA股株式市場研究、国泰君安証券研究所 業務役員、業界アナリスト。この間、新財富業界アナリスト賞、金牛アナリスト賞、Institutional Investor’s tenth annual All-China […]

,

中国での医薬品知財の動向と特許法の第四次改正(前半) ~ 特許法の第四次改正法案の公表(2020年7月)を受けて

医薬品の分野が、米中間で政治問題化している通信・IT分野と異なっている所は、中国が医療分野で大きな国内問題を抱えていており、その制度改革と表裏一体の関係にあることです。医薬品の流通、薬価、保険、製品の品質等の問題がそれです。
この記事では改革の方向性や知財制度改正の3つのポイントを取り上げます。

【百済神州】新薬が中国発の抗がん剤で初のFDA画期的治療薬に

BeiGene (百済神州)のBTK阻害剤である zanubrutinib が FDA によって画期的治療薬として指定を受けました。今後 zanubrutinib は各申請を省略し、上市申請されることになります。また、これはFDAが認めた中国発の抗がん剤で初めての画期的治療薬です。 zanubrutinib (BGB-3111)は北京 BeiGene によって開発された、小分子ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤です。慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、非ホジキンリンパ腫の一種であるワルデンストレームマクログロブリン血症(WM)といったB細胞性腫瘍をターゲットにしています。2018年7月にFDAは既にWMを対象に優先審査を認めましたが、今回はMCLを対象に画期的治療薬として指定しました。また、NMPAはMCL(2018年8月27日)とCLL・SLL(10月24日)を対象にして上市申請を受理しています。 FDAへの上市申請は今年前半を目指しているとしています。 BTK阻害剤は、2014に米国で上市された ibrutinib が有名ですが、本新薬はそれと比較して高い奏効率と低い副作用発生率を試験結果で残しており、第二世代のBTK阻害剤として期待されています。 中国本土初の医薬品で画期的治療薬として指定されたものとしては初であり、2017年に指定された台湾TaiMed BiologicsのHIV治療薬ibalizumabを含めれば、2つ目です。

中国発の免疫療法薬としては2番目の新薬が上市

Innovent Biologics(信達生物)のがん免疫療法薬 Tyvyt (sintilimab) が、12月27日に上市承認されました。これにより、中国で上市承認された中国発の免疫療法薬は2つとなりました。 中国において既に上市されている抗PD-1/PD-L1阻害剤は、中国発2つ、海外発2つで、Innovent の CEO は PD-1 阻害薬が中国の医薬品企業にとって海外企業と対等に戦うことのできる最初の領域になったと語っています。

,

中国特許法改正案が提出されました

12月5日、李克強総理は国務院常務会議を司会、《中華人民共和国特許法改正案(草案)》(中国語:中华人民共和国专利法修正案)を可決し、草案を2018年12月23日〜29日に開催予定の全国人民代表大会常務委員会に提出することを決定しました。今回国務院を通過したこの特許法改正案には3つの注目点があります。

2018/12/4 中国医薬品産業ビジネスセミナー開催

経済的にも国の生き残りをかけて党・行政主導による産業構造の未来に向けた改造に向かっている中国。医薬品産業においては、過去数年、ジェネリックの事業環境に大鉈が振るわれ、且つ、新薬の研究開発の推進に向けて重点的な梃入れ政策が打たれています。

そのような中国における医薬品産業を取り巻く激動が渦巻く今、中国の医薬品企業は、どのような企業戦略でこの環境を乗り越えようとしているのでしょうか? さらに、中国の政策・規制環境は将来、どちらに向かっていくのでしょうか? 今後、日本の医薬品企業が中国とどのように向き合っていったらよいかを考えていただくために、一石を投じたいと思います。