近年、中国で実施されてきたジェネリック医薬品に対する一致性評価は、中国の医薬品業界にとって突然降ってわいた大嵐のようなものでした。そういった環境下でも、ほぼ最高利益を上げてきたのは浙江省に本社を置く華海薬業(HuaHai / 株式コード:600521;上海)です。なぜ、華海薬業は大成功を収めることができているのか、おそらく自身も予想だにしなかったことだと思います。
華海薬業はAPI領域でのリーディングカンパニーとして知られてきました。特に降圧薬系ACE阻害薬及びARB薬APIの主要供給メーカーでもあります。他方、華海薬業が製剤メーカーとして中国国内で名を知られるようになったのは、2016年から始まったジェネリック医薬品に対する厳格な一致性評価を契機とします。一致性評価をパスするには、生物同等性試験(BE)のほか、CMC(薬学)の再研究も必要となり、たとえすべて順調でも、審査期間を考慮しなくとも一年以上の期間がかかります。当時、多くのジェネリック企業は、製品の許認可の取り下げ、試験の再実施等、辛酸をなめました。にもかかわらず、華海薬業は、スタートから2年後の2018年12月時点で、11品目というダントツ・トップの通過数を誇り、業界を震撼させました。
実は、遡ること12年前の2004年当時から、華海薬業は米国に子会社を設立し、米国向けに製剤の輸出業務を展開させていました。これらの製剤はFDAの承認を受けるべく、すでに厳格なCMC研究とBE試験を行っていたため、今回の中国の一致性評価においては、試験の再実施をすることなく、ほぼ申請するのみで良いという状況でした。
ただし、華海薬業のリスクの1つは大株主の不和とされています。一般的に、中国の民営製薬企業の会長は創業者あるいは一族が着くのが普通です。ところが、華海薬業は外部からトップを招聘するケースが長く続きました。現在の会長李宏氏も華海薬業に入社してから日が浅く、さらに他の経営陣とのつながりが薄いとされています。華海薬業の会長の職は、最大株主と二番目の大株主との不和から、繰り返し外部からの招聘となっています。華海薬業は1989年設立、当時の共同創業者である陳保華氏と周明華氏の両氏は大学の同級生でした。ところが、会社が大きくなるにつれ、二人の意見は調整不能になっていきました。最終的に、二番目の株主の周明華氏は取締役会から外され、最大株主である陳保華氏も2013年会長職を退き、取締役・社長となりました。中国では、会長の権限は社長より強大で、会社経営に対する影響力が大きいことから、このポジションに外部の者が入ってくると、大株主との軋轢を生むことになり、経営の不安定化を招きます。
華海薬業のケースのように、近年の中国製薬企業は、新薬メーカーだけでなくジェネリックメーカーでも、中国国内の政策転換によってのみならず、米国等の海外要因によっても、業界での地位は目まぐるしく変化しています。