新薬の初上市を米国ではなく中国で


最終更新日: 2023/01/29

8/6に「米国より中国を重視、5年後には主流か - 新薬承認で世界市場一変も」という題のブルームバーグの記事が公開されました。

記事の概要は、

  • アストラゼネカは貧血治療用新薬を中国で米国より1年ほど早く投入
  • イーライリリーも新薬を中国でまず上市予定
  • 今後5年で世界初上市に中国を含めることが主流になるかもしれないと予想

アストラゼネカの貧血治療薬

アストラゼネカがの言及した貧血治療薬は、FibroGen社の開発したロキサデュスタットです。日本ではアステラス製薬が第III相臨床試験を行なっており、中国ではアストラゼネカが同試験を行なっています。そしてアストラゼネカが米国と中国での開発販売権利を、アステラスが日本、欧州、中東、南アでの権利を有しています。
アストラゼネカは米国と中国のうち、中国においてまず販売するということですが、2013年のニュースリリースの中で、既にその方向で計画を進めていることを明らかにしています。

世界展開する新薬の初上市が中国というのはこれまでになかったことであり、今年年末の上市成功の際には中国で大いに話題になるに違いありません。

イーライリリーも中国でまず上市

イーライリリーは新薬開発の8割において世界同時開発を実施しています。しかしその中で抗がん剤 Fruquintinib(フルキンチニブ)は中国でまず上市の予定。Fruquintinib は和記黄埔医薬(ハッチソンメディファーマ、Hutchison、上海)の研究開発により見出されたもので、中国における結腸直腸がん、肺がん、胃がん適応についてはリリー社をパートナーとして進めています。既に蘇州に専門の製造工場も建設済みとのこと。

中国の医薬品市場規模は急速に拡大

医薬品市場規模において、中国は2013年に日本を超え世界第2位になりました。今後日本は緊縮政策により市場規模は横ばい、もしくは減少に転じる可能性もあります。
しかし中国は裏付けとなる経済の拡大、元々の人口が多いことや、急速に高齢化が進んでいること、関税の引き下げなどの要素により、規模は引き続き急速に拡大するとみています。また、毎年数百万人が自費で海外で治療を受けているといわれており、新薬承認の早まりによりこれらも中国市場に戻ってくることになります。
このように売上貢献度の高い国、地区で先ず発売することは当然の流れといえます。

先駆け審査指定制度が中国においても始動

日本では2014年、それまでのドラッグラグ解消を中心とする政策から、研究開発促進の政策に転換し始めたころ、先駆け審査指定制度がスタートしました。
中国においても優先審査の制度が2017年より開始され、また近い将来には、中国で臨床試験をした新薬についてデータ保護期間を最大3倍に伸ばす制度も始まる予定です。
こうした優先審査を考えると、中国における同時臨床試験の実施は今後増えていくものと予想されます。

中国における研究開発の急速な発達

リリー社の例のように、中国において研究開発された新薬の製品化が今後も増えていくと想定されきます。既に研究開発に関するニュースの発信源が中国であるのは珍しくなくなりました。
中国で研究開発された新薬ですから、米国等でなく中国にて先ず上市を計ることになります。

販売市場としての中国の発展だけではなく、研究開発拠点としての中国の存在感が増している結果、今回のように「世界初上市を中国で」、との流れができ始めています。

Author Profile

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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