中国国産のPD-1免疫チェックポイント阻害剤(抗癌剤)と医療保険
中国では現在、4種の国産の「コロナ・ワクチン」が承認され、既に3億5千万回以上の接種が行われているとの事(2021年5月12日)。筆者も、中国で近々接種予定です。接種しましたら、中国ワクチン事情としてレポートする予定です。
一方、抗癌剤は当面、予定がありませんので、今回レポートします。今、ホットなPD-1癌免チェックポイント阻害剤(抗癌剤)、中国は自主R&Dによる新薬が、下記の通り4製品既に承認・上市済です。
中国企業 | 上市時期 | |
先を切ったのは、 | 君実生物(Junshi Bio/上海) | 2018年末 |
その10日後 | 信達生物(Innovent/蘇州) | 同上 |
翌年に | 恒瑞医薬(HengRui/江蘇省・連雲港) | 2019年5月 |
そして、 | 百済神州(BeiGene/北京) | 2019年末 |
ポイントになる保険適用ですが、今年(2021)年3月から適用の医療保険リストには、これら4製品の全てが収載されています。従来は、新薬の承認が下りれば、まず病院に納入され、患者は自己負担で使用します。そして実績を作ってから、その数年後にやっと医療保険リストに収載され、保険償還されていました。日本では新薬の承認と薬価収載はセットでされますが、中国では、近年やっと承認後、短期間で新薬に保険が適用される時代が到来しました。これによって、薬価は大幅に引き下げられましたが、新薬の市場は大きく拡大すると言われています。
さて、中国発の国産PR-1の売上高、直近四半期(2021年1Q)の数字は、下記の通りです
中国企業4社 | 2021年1Q売上高 | 前年同期比 |
君実生物(Junshi Bio/上海) | 60億円 | 40倍 |
信達生物(Innovent/蘇州) | 120憶円 | 1.8倍 |
恒瑞医薬(HengRui/江蘇省・連雲港) | 400億円 | 2.3倍 |
百済神州(BeiGene/北京) | 50億 | 2.3倍 |
各製品とも、昨年が発売直後だったことを鑑みても、どれも驚異的な伸びを示しています。
トップのHengRui(恒瑞)は、今年2021年通年の売上高を1500億円~1700憶円とはじいており、中国のPD-1市場(BMS、MSD等の外資を含む)の25%を占めるとしています。HengRui製品の医療保険の年額治療費は85万円とされていますが、昨年実績によると、医療保険適用の病院機構の一括購入が占める割合は低く、大部分が院外での取引で納入されています。
医療保険リストに収載されたにもかかわらず、実態として当該新薬の使用がされない、または保険償還されない医薬品が多数存在しており、それを打破するために、病院、薬局の「双通道」を保険機構と結びつける制度改革が2021年5月に公表されています(次回レポートを参照)。この政策がさらに、国産PD-1の市場を拡大して行くことになると言われています。
そういった中で4社の競争は熾烈を極め、トップのHengRuiはPD-1製品にMR2000人を投入、その他3社もMRを増強しています。最初に市場参入したJunshiは、アストラゼネカとの連携により活路を見出そうとしています。
4製品の医療保険適用後の薬剤費が平均100万円(年間)とした場合、PD-1の市場は5,000億円強にまで拡大するとしています。しかし、将来、薬剤費の切り下げに見舞われ、薬剤費は半額にまでカットされることも想定されています。その意味で、各社にとって、病院市場で如何に早く浸透させるかが非常に重要になって来ています。
その拡大路線を走る為には、PD-1の自社品の適応症の追加承認をいかに先行させるかが決め手となっています。肺癌、胃癌、肝癌、食道癌が4大固形癌ですが、現に、各社は適応症の追加承認を相次いで受けつつあります。
上記4社が先行し着々と地固めをしている中、後続の国内発PD-1は適応症で新機軸を打ち出してunmet medical needsを満たす特別の戦略が必要とされています。
Author Profile
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弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)
藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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