医療IT企業四天王とそのサービス内容
世界でインターネットテクノロジーが既存のビジネス/流通チャネルに大きな変革をもたらしていますが、医療の世界もその例にもれず大変革の渦中にあります。
特に中国ではどの分野であれ、新しいビジネスチャンスがあると言われる領域には多くの企業が一気に参入し、巨額の資金が集中的に投入されます。そして、参入した企業の熾烈な競争の混乱期を経て、淘汰が起こり、生き残った企業が徐々に市場を押さえて安定化に向かうといったパターンです。(ECモールのタオバオ、QRコード決済のAlipay、配車サービスのDiDiなど)
中国のネット医療は、今が混乱期~淘汰の時期にあるようです。
2020年、コロナで人々が引きこもりを余儀なくされた時は、医療ITサービスに参加した人が激増しました。ところが、コロナが中国では沈静化した今、転換期を迎えています。
数年前から各社乱入とも言える状況で新医療ITビジネスの立ち上げがありましたが、その多くが淘汰され、現在生き残りつつあるのはネット巨大企業のアリババや京東が運営するプラットフォーム、有名な薬局チェーン、医薬品の製造・流通企業のそれです。但し、ビジネスモデルも含めて、未だ混沌とした状況が続いています。
そういった混沌とした環境を代表しているのが、「叮当快药」です。大手のOTC企業が、2015年にオンラインプラットフォームを立ち上げ、アプリ上で薬剤師の説明、医薬品の注文、購入者への宅配を中心としたビジネスを展開しています。過去400億円相当の資金をベースにビジネスが急拡大してきましたが、過当競争の中、赤字から脱却できず、株主の大きな入れ替えも行われてきました。それが、この6月8日の投資ラウンドで220億円を集めました。ただ、下記の通りネット巨大企業が同じようなサービスに参入し始めたこの市場で特徴点を打ち出していくのは並大抵のことではありません。
平安好医生
中国の巨大な保険会社の平安グループの平安健康が運営する「平安好医者」(中国語で「好医生」は、良い、立派 な医者という意味)のネット医療ビジネスも動乱の最中にあります。サービスとしては、直接医者とチャットで医療相談ができるサービス、医者や病院の口コミ、病院の予約、薬の購入などです。
2015年以降連続6年の赤字決算(累積で800億円)、黒字化の目処が立たず、昨年5月にトップ総入れ替えの人事が断行されました。保険ビジネスによる患者・医者の情報をベースに新サービスをどのように創出するかが問われています。
阿里健康、京東健康
平安好医生に比べて、巨大ネットビジネス企業であるアリババ(阿里巴巴)や京東をバックとする「阿里健康」、「京東健康」は医薬品および健康関連商品のネット販売をコア ビジネスに据えて、その周囲の医療IT等のサービスを徐々に提供していることから経営は比較的順調に推移しているようです。「阿里健康」は2020年に黒字化、「京東健康」は増益基調が続いています。
微医(WeDoctor)
上記の「平安健康」、「阿里健康」、「京東健康」と共にネット医療の四天王の地位を占めるのが「微医」です。前三社は、既存のビジネスをベースに商品販売を主力にしているのに対して、「微医」は毛色が異なっています。医療ITの先駆者として2010年に創業。2015年にはオンライン病院を開業して、 オンライン診療・処方、医療保険適用処理等のサービスを提供してきました。売上高は急増していますが、赤字からは脱却できていません。そのことから、前三社が果たしているIPOについても2021年4月の時点で香港に申請しているものの結果はまだ出ていません。
通信販売の対象となっている医薬品の範囲は広がっていますが、処方薬の取扱いについては、規制が十分に追いついていません。ネット上の診断と処方薬のネット上の販売に不透明な部分も存在する所から、今後その面での規範化を高めていく必要があると言われています。
平安好医者 | 阿里健康 | 京東健康 | 微医 | |
特徴 | ネット医療で患者―病院・医師の繋がりカバー範囲が最大 | 市場価値が最大であるネット医療企業 | 最大のネット医療プラットフォームによる最大の通信販売ドラッグストア | オンライン診療 |
利用者数 | 登録者:3.7億人 アクティブ:6700万人(MAU) | アクティブ:2.8億人(YAU) | アクティブ:7300万人(YAU) | 登録者数:2.2億人 |
優位性 | 健康保険サービスを拡張する形で、ネット医療サービスを提供 | アリババの通販プラットフォーム(タオバオ)を利用し顧客獲得コストが低い | 京東の通販・物流システムを利用 | オンライン診療の裏で社会保険のシステムに接続されている |
カバー率 | 3000病院、9万薬局、5万人の医者と連携 | 商品の提供は7-24時間内、120都市をカバー、医薬品企業の90%をカバー | 物流・倉庫システムに秀でており、200都市をカバー |
Author Profile
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弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)
藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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