中国での臨床試験のSpeed Up化 / 治験申請(IND)が「30日」承認の方向へ
7月末にNMPA(薬監局)からIND申請から「30日」以内に承認の可否を下す試行を2025年1月から開始すると発表されました。<臨床試験の承認審査の最適化の為の試行的運用の通達 / 优化创新药临床试验审评审批试点工作方案的通知>
https://www.nmpa.gov.cn/xxgk/fgwj/gzwj/gzwjyp/20240731184417109.html
1.7月の薬事承認申請の件数
7月単月の医薬品の承認申請件数は、1219件(上市、臨床試験等を含む)でした。下記の表1を参照。このうち、臨床試験に関する申請(IND)は172件、その中で、一類の新薬(新規有効成分を含む薬剤)は128件。 国内外別のIND申請の内訳は、中国国産によるものが107件、輸入品が21件です。
従来、申請してから「60日」以内に当局からNoの返事がない限り、臨床試験を開始してよいというルールでした(薬品管理法§19)。その後、臨床試験開始の為には、実施施設での実施申請、倫理委員会での審査、契約の締結等で半年~1年を要していました。
従って、中国で臨床試験を開始することを企画してからヒト投与まで1年以上の長期間を要しているのが実情でした。
2.中国の新薬研究開発を取り巻く環境
上記の7月単月の一類(新規有効成分を含む)の上市申請(NDA)は8件で、内、中国国内品目が7件、輸入品(外資)が1件です。このように中国の国内での新薬の研究開発は目を見張る進展を見せています、質・量ともに。
従来、中国の内資が創出した新薬で先進的なものであれば、多くは、先ず、米国でINDを申請して、臨床試験をスタートしていました。臨床試験の実施施設・臨床医・生まれてくるデータの質は、米国の方が信頼性が高いとされ、尚且つ、FDA(米国)とNMPA(中国)の当局の実力の差を反映して、米国の方が、審査も早く、早期に臨床試験を開始できる。こういった背景がありました。
中国は、2016年の薬事制度・システムの改革に着手して、この7年間に、当局での審査承認システムも含めて、大幅な質の向上を見ています。
中国の臨床実施施設は、マルチ・ナショナル企業等が実施する国際共同治験の参加を通して、アジアのセンターとして、場数を踏んできており、海外とのデータの乗り入れ、連携も強化されています。それを通じて、施設・医師・当局の審査の質も向上してきています。
そういった背景の中で、臨床試験の実施環境を更に整えるべく、今回、新たに当局でのIND審査、更には実施施設(病院)での各種手続・審査のトータルシステムの最適化を図ることを目論んだ政策が公表されました。目玉は、IND申請後、承認までの待期を「60日」から米国並みに「30日」にするというものです。
3.「通知」/ 臨床実施システムの最適化
1)試行 / 期間・地域・施設の限定
・IND申請から承認までを「30日」にする試行は、2025年1月に開始し、7月までの限定です。
・地域と実施施設も限定。8月末の時点で、「上海」と「北京」が試行地域として認定されてます。そして、上海・北京の薬事当局が、実施施設(病院)を認定していくということになっております。対象の実施施設(病院)が認定されるためには、当該施設内で、科学・倫理審査、契約の締結等の一連の手続きがスムーズに流れるようにシステムが整備されている必要があります。既に上海・北京の両市で複数の実施施設が認定済みです。
・尚、「通知」では、各地域がNMPAに申請して、地域認定を受ける、また、各実施施設が認定された地域の薬事当局に申請して、施設認定を受けるという立て付けになっています。
2)対象の新薬・申請者の制限
対象となる新薬の品目は、一類(新規有効成分)であって、但し、細胞治療・遺伝子治療・ワクチンは除くとされています。
・IND申請者は、過去、国内外で少なくとも3件の新薬臨床試験の申請の承認を取得した経験がある企業との要件が課されています。
3)IND承認、臨床試験開始までの期間の短縮化
・CDE(審査センター)は、IND申請の受理後、「30日」(営業日)内に可否の結果を出し、ウエブ上で、申請人に通知します。
・IND申請者は、実施施設と協力して、IND承認後、12週間内に、臨床試験を開始する(最初の治験参加者の同意書を取る)と、「通知」では規定しています。実際の目標としては、今回の認定実施施設では、事前の準備を前提に、IND承認後、3か月内に、施設内の手続き(倫理審査、契約締結)を終えるとしています。
4.今後
上記の枠組みで、少なくとも10品目のIND申請・承認・臨床試験を開始し、それらの経験を踏まえて、一連のシステムの最適化を図りながら、他の地域にも適用を広げていくことが想定されています。
中国における臨床試験の質の向上に加えて、スピード化が実現していけば、中国国内でしか臨床試験が出来ない、コスト・経験面で体力のない中国企業にとっても朗報となります。海外企業にとっても、開発期間の短縮、早期上市の実現の道が拓かれてくることになります。
患者数は巨大、臨床試験の質も向上してきており、更に、スピード化が実現すれば、日系企業にとっても、中国でのFIH(最初のヒトへの投与)試験の実施も含めた早期段階での中国臨床試験の実施も視野に入って来ると思います。
付録. 《国家药监局关于印发优化创新药临床试验审评审批试点工作方案的通知》国药监药注〔2024〕21号
国家医薬品監督管理局による『新薬臨床試験の審査・承認を最適化するための試験的運用』に関する通達
<追記予定>
Author Profile
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弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)
藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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